food 2021 introduction

Author池邉祥子 / Shoko Ikebe
Category Food


WINDOW foodの2021年は、料理作家の北嶋竜樹さんをお迎えして3回の連載と10月下旬には食を用いたインスタレーションを開催します。
イントロダクションとしてTALK TO MEデザイナー池邉より、北嶋さんのご紹介をさせていただきます。

北嶋さんのお料理を初めて口にしたのは2019年の始め、東京出張中に麻布十番にあるsublim(現 銀座L’ARGENT)というレストランでの食事会でした。sublimはイノベーティブ・キュイジーヌと言われる創造的な料理を提供するお店で、美しさや美味しさは勿論、好奇心を誘うような一皿に抽象絵画を食べているような感覚になったことを強く覚えています。
当時北嶋さんはsublimで副料理長をされていて、偶然にも友人や知人との繋がりもあり緩やかに縁が繋がっていました。2020年に活動の場を京都に移され、パートナーの前田夏子さんと精進料理をベースにした食と健康の新しい在り方を発信するプロジェクトneutralhttps://www.neutral-scape.com/ )を始動されます。neutralの活動は、特定の場所を持たずインスタレーションという形で人や土地・空間などからインスピレーションを得たものを食を用いた表現で創作するものです。

東京で初めてお料理をいただいた時からneutralでの食事会と何度か食べる中で一貫して感じることがあります。
それは職人的で繊細な技術や新しい調理法がしっかりと軸としてありながら、イノベーティブ・キュイジーヌに多い難解な調理の先に見える味覚とオーガニック野菜や良質な素材のよさを引きだす至ってシンプルな味わい、そのどちらもが絶妙なバランス感覚で一皿にまとめ上げていることです。

私自身も同じ机の上に、新しいものや古いもの、例えば高度な技術で織られた生地、手紬手織りの素材、草木染、コンテンポラリーアートや骨董、それらを並列に愛で楽しみ、感じてきました。何かに極端に偏るのではなくバランスの中の美しさを模索する中で北嶋さんの見ている景色や作り出すお料理は共感することが多くありました。

このあと3回の連載では〝 scent 〟香りをテーマにオリジナルのお料理をみせてくれます。このテーマは北嶋さんからご提案いただきご連絡もらった時も素敵なテーマに大変嬉しくなりました。どうして scent にしたのか、と後日伺うと「お互い作り手として共通していることを考えたとき、僕も彼女(池邉)も、単に仕上がりが良ければ良しではないですから、その過程で生まれる、ある種作り手しか体験できないであろう瞬間をとても大切にしていて、正にそれが香りだったわけです。実際に香るのかどうかではなく、その思いを受け手にまで届けたいというアティテュードは重要なことだと感じています。」と返答をいただきました。

私は日中の事務仕事や打合せが終わった夕方から夜の静かな独りの時間に物作りの一番大切な型出しや色決め、アイディア出しを行っています。静かなアトリエから生み出されるどうなるか分からない未完成の形に出会う喜びやそれが変化する時間は特別で幸せな瞬間です。その気配を香りという形で連載と食事会でご体感いただきます。

幸福な時間やその感覚の欠片を皆さんと共に楽しめたら、私も大変嬉しく思います。

Author

池邉祥子 / Shoko Ikebe

TALK TO ME designer