going out no.2 with Fang 前編

AuthorTALK TO ME , 高石宏輔 / Hirosuke Takaishi
Category going out


京都の街から北の方へ電車で20分、のどかな無人駅で降り、10分ほど歩いていくとお屋敷が並ぶ静かな通りに私設図書室兼喫茶「鈍考/喫茶 芳」があります。すぐ側には比叡山があり、山の緑の澄んだ空気が流れていました。
今回は鈍考に併設されている喫茶芳の芳さんにTALK TO MEのお洋服をテーマに、本をご紹介していただきます。

芳さんとデザイナーの池邉が初めて出会ったのは5、6年ほど前です。共通の知人が、TALK TO MEのお洋服が似合いそうだと、芳さんを東京の展示会に案内してくれました。

ロッカーに荷物を預けて中に入ると、壁一面に様々なジャンルの本が並んでいます。お話を伺う前にコーヒーを淹れていただきました。静かなお部屋の中に液体の落ちる音が聞こえます。

池邉  (以下 I )  京都のご出身ですか?

  ( 以下F )  いえ、神奈川県生まれです。中学から大学まで北京で、日本に戻ってきたのは就職のタイミングです。東京に引っ越し、その後結婚と鈍考のオープンを機に京都に来ました。

コーヒーへの興味はどこから始まりましたか?

F  ドキュメンタリー映画「A FILM ABOUT COFFEE」を観たのがきっかけです。その中で、大坊珈琲店の店主・大坊さんがカウンターでゆっくりとネルドリップで珈琲を抽出されていました。
ネルドリップ素敵だな。自家焙煎ってこうやるんだ。こんなに黒光りしている豆なのに甘く感じるんだ、とか。色々と面白い発見があって、コーヒーをやりたいと思ったのです。コーヒーはただ淹れるものでも、飲むだけでもなく、そのコーヒーと共にある時間そのものを一つの素晴らしい体験にできるのだと衝撃でした。
東京で会社員として働いていた頃から、いつか自分で喫茶店を持てたらいいなとは思っていました。知人のワインバーを間借りして、平日は会社員、土曜日だけ喫茶店をやっていた時期もあって。

多忙でしたね。

F  でも楽しかったです。思い返すと、喫茶店を営む経験がないゼロの状況から始めるよりは、心はだいぶ楽だったと思います。それからしばらくして、京都に引っ越すことになりました。



ひのき林が先に広がるお庭を前に、お話を伺いました。



F  今日は、TALK TO MEのサイトのテキスト(https://talktome.jp/about)から言葉を抽出して、そこから自分の気持ちを整理しながら本を選んできました。全部で4冊です。テーマは、「幸福感」「女性が佇んだり動いたりした時の美しさ」「状況の違う場所を横断的に纏うこと」そして「先にある時間」、という4つです。

こんなにしっかり用意してくださって、ありがとうございます。

F  TALK TO MEのお洋服は、着ているという以上のものを得られているのに、それを主張することがない、というのが特徴だと思っていて。着ていると自然体でいられるのです。自分が出せている、というか。それでいて背筋が伸びる気持ちにもなるし、自分という存在が確かにここにあると感じられます。



1冊目は、伊藤比呂美さんの『女の一生』です。
Q&A形式になっていて、11歳の子の「お母さんみたいになりたい」という質問から始まって、60歳の方の悩みまで、年齢を重ねるごとにその時々の女性のありようが書かれています。
たとえば、33歳の男性からの「妻が僕の家のお墓に入りたくないと言って泣きました」という質問に対して、伊藤さんが「妻の気持ちは切実です。実は、わたしも、結婚していた頃、婚家の墓にはぜったい入りたくないと思っていました。でも、策を講じる前に離婚してしまったので、悩むこともなくなりました」と。
それから「仕事が忙しくて女友達とつきあわなくなってしまいました」という27歳の質問には、「働くのに忙しくて友達に向き合う余裕がない。今はそれでいいのです。いずれ必要になったら、また、女友達はできます。友達とはそういうもの。だから、夫や同胞より気楽でつきあいやすいんです」と。

I  サバサバしているけど、すごく腑に落ちますね。読むだけで気持ちが楽になります。

F  全部の質問に一貫して通底しているのが、「私は私」ということなのです。ありのままの自分でいること、自分という軸を持っていることが答えに導くんだ、というのが全てに通じていて。特に迷いがある時には、この本が灯台みたいになる気がします。

I  ちょっと力づけられますね。

F  これは一度読んで終わりじゃなくて、その時々の悩みに寄り添ってくれる本だと思います。

出産前の産休中にお話を聞かせていただく。



F  2冊目は、茨木のり子さんの詩集です。これは「状況の違う場所を横断的に纏う」というテーマで選んだのですが、私の中では、行く場所やシチュエーションなどの外部的な状況の横断もあれば、自分の明るい気持ちと暗い気持ちの内面的な横断もある、と思っていて。このお洋服は、どちらの状況でもすごく馴染んでくれる気がしています。

今日みたいなとても楽しい時も、逆にそうではない時も。生地の手触りだったり、風が入ってきた時の動きだったりが、表立ってではないですけれども「自分がここにいる」という重心を感じ直させてくれるような気がして。お守りのようなものですね。

そんなお守りのような本ってなんだろうと考えたときに、茨木のり子さんの詩が浮かびました。

茨木のり子さんには芯の強い方という印象を抱いていたのですが、亡くなられたあとに書斎を整理していたら、亡くなったご主人宛のラブレターがたくさん出てきたそうです。書いて出さずに、ずっと書き続けていたものが。それを見ると、あの強さからは想像できないくらい、内面の柔らかな女性らしさと愛する方を亡くされた悲しみが読み取れたそうです。そのエピソードを聞くと、彼女は両面を持っていたんだなと思って、私はその話を聞いてから彼女の詩が好きになりました。

今日のテーマには「自分の感受性くらい」という詩がぴったりかなと思っていたのですが、こちらをぜひ朗読していただけませんか。言葉に出して初めて力を出す詩だと思うので。



I   え、ちょっと待って(笑)。心で読ませてください。急に「ここを読んでください」って言われると、国語の授業みたいで恥ずかしいですよね。

私は授業中に朗読の名指しをされると、「待ってました」と言わんばかりに堂々と読むこどもでした。

そうなんですか(笑)。羨ましいです。



後半は残りの2冊をご紹介いただきます。
これからの季節の読書の一冊に是非お楽しみ下さい。



鈍考 / 喫茶芳
予約制の私設図書館、喫茶。
現在はお休み中ですが、来春から再開予定。

京都府京都市左京区上高野掃部林町4-9 ( GoogleMap )

Instagram:@donkou_kissa.fang
BACH 京都分室 鈍考 donkou/喫茶 芳

Author

TALK TO ME , 高石宏輔 / Hirosuke Takaishi