山滴る

Author池邉祥子 / Shoko Ikebe
Category Food
料理作家 北嶋竜樹さんの作品をお届けする、全3回の連載 WINDOW Food。10月28日(木)・29日(金)には、本連載と連動した特別企画、
インスタレーション形式での〝 scent 〟香りをテーマにした食体験を開催予定です。
場所は、兵庫県は丹波篠山にあるセレクトショップarchipelago(アーキペラゴ)。次回連載時に詳細をお知らせしますので、楽しみにお待ち下さい。



7月の半ばに奈良の春日山に登っていました。針葉樹と広葉樹が等しく自生する山で、841年から木を切ることを禁止し、それ以降原始林となりました。奈良の人びとの暮らしと原始林が隣り合わせにある日本でも大変稀有な山です。ガイドの方から山や森の成り立ちを聞くと、同種の木々が固まって育つのではなく、散らばって自生することが自然で所謂原始林と言われる山の構成だと伺いました。確かに春日山で見た野生杉、山桜、椋、どれも1本単位でしか見ることがなく色んな種類の木々がその場所に応じて生きています。

突然山の話から入ってしまいましたが、今回北嶋さんに作っていただいた『山滴る』という作品はパイナップルと唐松の枝、杜松(ネズ)の実を一緒にコンポートしたものをベースに、ジンに使われるジュニパーの香りのムース、上品な甘酸っぱさのヒノキマヨネーズ、菊花のグラニテ(かき氷)、仕上げは檜や杉のパウダーオイルと香りや質感が幾つもの層になっていました。
口の中でそれぞれの植物の香りが立ち上がっては消えていく様子や豆乳で作られたムース、マヨネーズといった濃厚な舌触りが春日山の力強く自生している原始林と重なります。不思議と山の中を歩いている時と同じ感覚を味覚を通して体験している時間でした。



今回の作品をいただく前に北嶋さんは「食べたことないけれど、でもどこか懐かしいと思うような作品」と話してくれました。
日本人にとってなじみ深い木の香り、その中でふっと顔をのぞかせるように香る菊花、スプーンを口に運ぶ度に食べる人それぞれにとっての自然や夏の香りが蘇るように思います。
自分の心の記憶をひらきながら味わう、新しいけれど懐かしい作品でした。



北嶋竜樹 Ryuju Kitajima
1983年、大阪生まれ。2021年に東京から京都へ拠点を移し、『neutral』の名で食を用いたインスタレーション作品の制作を行なっている。食事のための食ではなく、食べるという行為を通じて身体の内側から感じとる感覚を、ひとつの思考や感性の情景描写として映し出す、体験に重点を置いた作品制作を行っている。
https://www.neutral-scape.com/

ー撮影ー
八木夕菜 Yuna Yagi
1980年、兵庫県生まれ。2004年、ニューヨーク・パーソンズ美術大学建築学部卒業。
カナダ、ニューヨーク、ベルリンを経て、現在は京都を拠点に活動。視覚と現象を用い「見る」という行為の体験を通して物事の真理を追求した、作品制作やインスタレーションを国内外で発表している。
https://yunayagi.com/

Author

池邉祥子 / Shoko Ikebe

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