アトリエの記録

Author池邉祥子 / Shoko Ikebe
Category essay
7年過ごしたアトリエを先日引っ越した。

本を読むために建てられた市中の別荘をアトリエとして借りていた。
入口がほとんど分からずshowroom openの時など、お客さんからは場所が分からないとよく電話が鳴ったことを覚えている。勝手口のような狭さから入り(というか勝手口だった)、少し急な階段を登ると天井高が高い洋館のような佇まいの一室でお洋服を見てもらっていた。玄関と室内にえらくギャップがあり、その差のビビットさも気に入っていた。

アトリエの1階



一階は15時以降くらいから庭の木々から木漏れ日が差し込む。天気によって祝福されるような木漏れ日を見れる日はご褒美のような時間だった。キラキラゆらめく光は今でも目の奥に記憶されていて、思い出すと幸せな気持ちになる。猫がよく来て、鳥が鳴いて、市街地に比較的近い割に外界と切り離されたような世界観があった。日中でも静かなのに更に深く静まり返る深夜は本を読み、アイデアだしや1番集中したいドレーピングのための時間を過ごした。

showroomとしても時々開いていた2階



引越しが決まって、スタッフに「寂しくないですか?」と聞かれて始めは「寂しくない」などと言っていたけれど、日が近づくにつれ「やっぱり寂しい」と嘆いていたりした。
振り返ると環境が大きく物作りに影響すると感じた場所だった。アトリエで過ごした豊かな時間はお届けしたお洋服にもしっかり反映されていたように思う。

新しい場所は周囲の環境含め、馴染みのある場所で都市と自然のバランスが絶妙な所。さっそくよい散歩コースを見つけ、お茶の先生と野点もした。
きっとまた何かしら物作りによい変化があるように感じている。

大家さんが庭で麻雀大会の準備をしている所。庭から大家さんの奥さんがお菓子を持ってきてくれたり沢山思い出がある。

Author

池邉祥子 / Shoko Ikebe